過熱水蒸気の乾燥力はなぜ高い?

一般的に使用されている熱風乾燥に比較して、過熱水蒸気の乾燥力は170℃(乾燥逆転温度)以上でより高くなります。この過熱水蒸気の高い乾燥能力は、凝縮伝熱と呼ばれる熱伝導のしくみに起因します。

過熱水蒸気は乾燥対象物に触れると運動エネルギーと内部エネルギーを失い、水滴になります。この時に乾燥対象物に渡される内部エネルギーは「水の凝縮熱」と呼ばれる非常に大きなエネルギーであるため、熱風乾燥に比べ、高い乾燥力を発揮します。

過熱水蒸気の応用例(乾燥)

ドライフルーツの製造

通常の方法では乾燥が困難,あるいは品質が低下しやすい農産物について,熱風乾燥の前処理として過熱水蒸気処理を行うことの有用性について検討した。その結果,緑色ブドウについては比較的低温での乾燥が可能になり,色調に優れたドライフルーツを作ることができた。またミニトマトについても低温での乾燥が可能になり,品質の良い乾燥品を作ることができた。

長野県工技センター研報
No.14, p.F23–F27 (2019)

小豆あん及びおからの乾燥

小豆あん及びおからの過熱水蒸気による乾燥を行い、乾燥時の温度・重量変化、試料の化学的性状について熱風乾燥との比較を行った。生あん、おから共に過熱水蒸気乾燥の方が熱風乾燥より試料の乾燥が速く進行した。過熱水蒸気乾燥した小豆あんは熱風乾燥したものより食物繊維の含有量が高かった。過熱水蒸気乾燥したおからは熱風乾燥に比べて過酸化物価の上昇が抑制された。過熱水蒸気乾燥によって乾燥あん、乾燥おからの製造を高速にし、また機能性も高められると考えられた。

あいち産業科学技術総合センター https://www.aichi-inst.jp/shokuhin/research/report/food_2005_11.pdf

せんぎり大根の乾燥

せんぎり大根は本県の主要な特産品であり、冬季に天日乾燥により加工されている。しかし、加工できる期間が限定されることや天候に左右されるため品質管理や計画的な生産に苦労している。また、屋外で長時間乾燥するため異物の混入や細菌の付着なども起こりやすい。安全・安心に対する消費者ニーズの高まりから、異物混入対策はますます重要になっているが、天日乾燥では完全な防止は困難である。そこで、せんぎり大根の新規加工法として、過熱蒸気による乾燥を検討した。
過熱蒸気乾燥により非常に短時間で乾燥できた。着色を抑制するには温風乾燥との併用が有効であった。また、過熱蒸気乾燥したせんぎり大根は従来の天日乾燥品と色調や吸水性の違いが認められた。

平成13年度〔2001〕№46
宮崎県工業技術センター・宮崎県食品開発センター研究報告

ニンジンの乾燥

保存性や加工特性の向上を目的に、過熱水蒸気で乾燥したニンジンの特性の検討を行った。前処理としてスライスしたニンジンを 40%ショ糖溶液あるいは 40%卜レハロース溶液に浸潰することにより、乾燥時の収縮抑制効果が認められた。過熱水蒸気によって乾燥したニンジンでは、通風乾燥と比較して、カロテンはやや減少したが、効果的な殺菌ができた。前処理としてのショ糖溶液への浸漬は、過熱水蒸気による殺菌効率を若干向上させた。

愛知県産業技術研究所研究報告(2009年12月 p. 98-100) 愛知県産業技術研究所

水産物の高品質乾燥技術の実用化開発

過熱水蒸気を利用した高品質加工(乾燥)技術について、煮沸処理に替わる新しい加工処理の実用化開発を行い、加工流通業界への応用普及を図る。

従来の煮沸加工品に比べて、エキス分、遊離アミノ酸の旨味成分の濃縮保持効果が著しく高いことが確認された。すなわち、ベニズワイガニは甘味成分のグリシンやアラニン、味の濃さを増幅させるアルギニン、ウニ成分のバリン等の残留量が多く、マダコは栄養成分のタウリンが多量に残存濃縮された。

過熱水蒸気加工品はいずれも旨味、肉質、食感に関し、高い官能評価が得られた。特にベニズワイガニは「焼き風味のある」、マダコは「旨くて歯応えのある」高付加価値加工品として商品化への関心と可能性が示唆された。

過熱水蒸気を利用した水産物の高品質乾燥技術の実用化開発 清本鐵工株式会社